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花束を君に

  • 執筆者の写真: 青い彗星のあお
    青い彗星のあお
  • 2023年12月10日
  • 読了時間: 3分

更新日:3月23日




ちょっとむかし、僕は中国で仕事をしていた。



仲良しのダンという中国人の同僚がいた。



ダンはとても技術力の高いベテランで、頼りがいのあるメンバーだった。



加えてユーモアにあふれ、酒宴では爆笑をさらうムードメーカーだった。




みんな彼のことが大好きだった。





僕は中国の青島いうところによく出張していた。




ダンは青島エリアの担当だったので、彼とペアで仕事をしていた。




夏は、仕事後に一緒に海辺に行った。


海辺の屋台で初めて焼いたヒトデを食べた。


(ヒトデって食べれるんだ…。)



僕とダンは「不味いな」と言い合った。



ダンは長い串にささったヒトデを魔法のステッキのように振りかざして茶目っ気たっぷりにお道化た。





青島はビールが有名で、あちこちで生ビールが飲める。



青島ビールは美味い。



お店の樽から出されるビールは、買って持ち帰ることができる。


客はそれぞれ容器を持ってビールを求める列に並ぶ。


適当な容器がないと、ビニール袋にビールを注いでくれる。


(ビール、直接ビニール袋に入れちゃうんだ…。)



ビールを飲んでいい気持ちのダンは饒舌だった。彼のしゃべる天津なまりの中国語は僕の使ったどの教科書にも載っていなかった。




ふたりが両手にぶら下げたビール入りの袋は、泡だらけだった。





 ある時、設備のトラブルで、5日間工場にカンヅメになったことがある。僕とダンはいつ終わるともわからない作業に追われていた。




生産ラインを停止させてしまうことは、クライアントにとって大きな損失になる。一刻も早くトラブルを解消しなければならない。




ダンは油まみれになって作業し、得られたデータを器用にまとめた。




5日かけた長い作業が終わり、工場の外に出ると、向かい風がすがすがしかった。




ダンからたばこをすすめられた。


断らず、火を灯した。




煙は風向きの方向へ吹き飛んで、消えた。




ダンと僕の髪の毛はなびかなかった。


汗と油にまみれて、じっとり張り付いていたからだ。





**********



宇多田ヒカルの曲に「花束を君に」という曲があります。




決して新しい曲ではありません。




かつては、特に気に留めたことのなかった曲でした。


ラブソングかなぁくらいの認識でした。




軽やかなメロディーで明るい曲調なのです。




それが後に、「亡きもの」に宛てた曲であることがわかり、驚きました。




よく聴くとなるほど、ああ、確かに…。




ひとつひとつの歌詞が刺さり、胸がぎゅっと締め付けられました。




背景を知ると途端に見え方が変わるものって、ありますよね。



**********




時間は気づかないうちに流れていくね。



キミに会えなくなってから青島ビールまだ飲めねぇんだわ。


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